2013年7月4日木曜日

商店街うんちくツアー 海老名畳店




店主 屋号は海老名ですが、私の名前は吉野です。母の実家なんです。私の曽祖父が初代で、祖父が2代目、父が3代目、そして私が4代目です。
 最初に店を構えたのは馬車道でした。本牧に大きなお客さんがいましたが、当時は麦田のトンネルもなかったので、山越えしなければならず大変だったのです。
 それで、この場所に移ってきたわけです。祖父はここで生まれ育っています。いま生きていれば115歳です。
 みなさん、この冊子は行き渡りましたか。(畳屋道場の案内パンフ)
 そこにもあるように、私は熊本のい草農家を手伝いながらい草を仕入れて畳を作っています。
 そこの壁に八代の岩崎神社で撮影した写真が貼ってあります。ここはい草の神様を祀っているんです。
 緑色のシャツを着ているのが私たち畳屋で、黒いシャツはい草農家です。他にもメンバーはいます。
 私たちはこの33軒の農家と提携して生き残りをかけています。なぜか。


 いま、国産畳表の国内流通って何パーセントかご存知ですか。約20%です。80%が中国産です。
 (現物を示しながら)これが中国産です。いちばん安いです。ここからこっちが、熊本産。私たちが提携している農家が生産したものです。
 平成元年に5800軒あったい草農家が、いま630軒です。25年間で約10分の1になってしまったわけです。先日もこの農家さんから連絡がありまして、あと10年持たないぞというのです。
 この人たちが中心になっているのですが、50歳代前半なのです。い草農家は60歳過ぎたらきつくてできないといいます。しかも時給200円くらいの仕事です。
 12月に田植えをして翌年の7月から刈り取ります。それを秋まで乾燥させて、それから織り始めるわけで1年がかりの仕事なんです。


 そこに安い中国産が出回っていて、せっかく良い畳表を作っても買い叩かれてしまったりするわけです。だから後継者が育ちません。今いちばん若い人が40歳です。この方があと20年やったとしても、一軒で全国の畳をまかなうことはできません。いくら畳離れしている時代といえども、それは無理です。
 皆さんに差し上げた畳屋道場の冊子に、私達の思いが書いてあります。
 山形県の鏡畳店が熊本の33軒の生産者と7年かけてこのシステムを作り上げました。これは農水省と経済産業省の連携事業にもなって、このようなパンフレットも出来上がっています。
 そこに33軒の生産者が掲載されています。その中の橋口さんという方が日本一の生産者なのです。この人の畳表は首相官邸、熊本城、永平寺などに使われています。昨年も農林水産大臣賞を受賞しています。


 今年の2月、私たちが、熊本人吉にある国宝の青井阿蘇神社で、この畳表を使って畳替えをしてきました。私はその現場の責任者を任されました。
 この畳表と同じものを、今度は本牧神社で使わせていただきました。
 これは熊本のブランド品なのです。「ひのみどり」という品種を10年がかりで改良して、「ひのさやか」、「ひのさくら」、「ひのさらさ」と3段階にランク別けしました。この「ひのさらさ」が最高級品で、八代の生産量のうち5%しかありません。
 先ほどお話した橋口さんの畳表はわれわれ畳屋道場の他にごく一部の問屋さんにしか入りません。これは畳屋道場の鏡社長と橋口さんとのがっちりとした信頼関係があるから優先的に仕入れできるのです。
 私はこの橋口さんのところで去年の11月末にホームステイして田植えをしてきました。
 これを本牧神社で使うときも、橋口さんに連絡して、縦に7畳つながったものを織ってもらいました。


 い草農家というのは田んぼに草を植えてから育てて、刈り取って、織るまでが仕事ですから、草を育てるのと畳表を織るのが上手な人が優秀な生産者なのです。
 「ひのさらさ」は手触りが絹のようです。それでこういうネーミングにしたわけです。
 もう一つ、大きな問題があります。日本の生産量は八代が95%~98%を占めています。ほとんどが八代産なんですね。
 しかし現実には、これと同数の“国産畳表”というのが出回っています。つまり偽物が出回っているのです。産地を偽装しているわけですね。
 先日も大きな産地問屋が偽装していたのがバレて入札停止になりました。中国産の畳表を「ひのさくら」としていたのです。
参加者 見てすぐ分かるのですか?
店主 一般の方には難しいですね。
参加者 どう違うのですか?
店主 単純に言えば染めているのです。本物のい草は刈り取ったあと天然の泥で染めてコーティングしていますが、中国産は泥の中に染料を入れている物が多いです。だから拭くと青くなります。
 そちらに日焼けした畳表が置いてあります。左が中国産、右が国産です。中国産は、いっぱい黒い筋が入っています。それから色がまばらです。染めてごまかしているのですが、日に焼けるとそれがバレちゃうんですね。
 これが日本でいちばん出回っている畳です。
参加者一同 ……。

店主 い草の乾燥のさせ方も違います。国産はボイラー乾燥で一昼夜。50℃から55℃でゆっくり、ゆっくりと長時間かけて水分を抜いていきます。
 それに対し中国産は80℃の石炭乾燥です。ですから乾いた時点でヒビが入っています。それを使って畳を作りますから、その上を歩くとすぐにひび割れし、そこからささくれ立ってきます。
 ですから綺麗さも耐久力も違います。近年、畳替えのサイクルは10年とか15年ですが、小さい子なんかいたらこれだと早ければ半年しかもたないですね。
 畳の値段は8000円で20年ほど変わっていないのです。そんな20年前の値段で同じものができるわけがないんです。これが、その代用品なんです。
 私のところは一般的に高いといわれますが、高いのではなくて良いものを使っているということと、20年前の8000円に照らし合わせたら、こういうものになるということなんです。こういうカラクリなのです。まだまだ話しはあるのですが、あとは交流会の場ということで、のちほど。

(つづく)

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